劣化が早い画材。プロは使わないものと、その代わりに選びたい質の良い画材

こんにちは♪絵描きのひつじです。


絵を描く時間って、心がすっと静かになる瞬間ですよね。


でも、せっかく描いた絵が

「数年後に色あせてしまった」「紙が変色した」

なんて経験をした人も多いのではないでしょうか。


じつは、市販されている画材の中には、

時間に弱いもの=劣化が早いものが意外とたくさんあります。


知らずに使っている人が多いので、


この記事では、プロの作家が避けている画材と、

その代わりに選びたい

「長く美しく残る画材」を紹介していきます。


もちろん、練習や趣味で楽しむ分には、手軽な画材も全然OK。


でも「大切な人への贈り物」や「個展に出したい」「販売したい」作品には、

少しだけ気をつけたい選び方があるんです。

アクリルガッシュ:発色はいいけれど、長期保存には不向き


アクリルガッシュは、マットで不透明な発色が魅力。


ポスターやイラスト、デザイン画などでよく使われています。


文房具店や画材店でも手に入りやすく、初心者にも人気の画材です。


ただし、ここに大きな誤解があります。


「アクリル」と名前についているので、「アクリル絵の具と同じように強い」と思っている方が多いんです。


でも、アクリルガッシュとアクリル絵の具は、似て非なるもの。


アクリルガッシュとアクリル絵の具の違い
アクリル絵の具は、顔料(色のもと)をアクリル樹脂(プラスチックのようなもの)でたっぷり包んで作られています。


そのため、乾くと強固な塗膜ができ、耐水性・耐久性に優れています。


プロのアーティストが壁画や屋外作品にも使えるのは、この強さがあるからです。


一方、アクリルガッシュは、顔料の量が少なく、アクリル樹脂の膜も薄め。


そこに「体質顔料」という白い粉を混ぜて、不透明でマットな質感を出しています。


つまり、見た目の美しさに特化した「デザイン向けの画材」なんです。


乾くと耐水性はありますが、

塗膜が薄いため、時間が経つとひび割れたり、

退色(色褪せ)したりすることがあります。


特に、安価なアクリルガッシュには、耐光性の弱い染料系の色素が含まれている場合もあり、

明るい場所に飾ると半年〜1年で色味が変わることもあります。

厚塗りした場合、数週間でひび割れすることもあります。

アクリルガッシュで描いた作品のリスク

たとえば、白い壁に飾った作品。
窓からの光が当たる場所だと、数か月でパステルカラーが白っぽくなったり、

鮮やかな赤がオレンジに変色したりします。


また、湿気にも弱く、梅雨時期にカビが生えやすいのも特徴です。


もし販売やギャラリー展示を考えているなら、

購入者が「数年で色が変わってしまった」とがっかりする可能性があることを知っておくべきです。
実際に、作品を購入したお客様から「色が褪せてきた」とクレームになるケースもあります。

代用するなら:アクリル絵の具(プロフェッショナルグレード)

作品として長く残したいなら、「アクリル絵の具(プロフェッショナルグレード)」を選びましょう。
リキテックス プロフェッショナル、ゴールデン、ホルベインのヘビーボディシリーズなどは、耐光性に優れ、絵肌も安定しています。


マットな仕上がりが好きなら、アクリル絵の具に「マットメディウム」を混ぜることで、

アクリルガッシュのような質感を保ちながら、長期保存にも強くなります。


少し値段は上がりますが、作品が10年、20年と美しく残ることを考えれば、十分価値のある投資です。
とはいえ、日々の練習や下書き、短期イベント用のポスターなどには、アクリルガッシュはとても便利。
用途に合わせて使い分けるのが賢い選択です。

インク系画材:透明感は美しいが、染料の弱点に注意


インクアートやカラーインクの鮮やかさは魅力的です。


特にアルコールインクアートは、色が混ざり合う美しいグラデーションが人気ですよね。


SNSでも、幻想的なインクアート作品をよく見かけます。


しかし、ほとんどのインクは「染料」でできており、光と時間にとても弱いのが現実です。


染料は分子が細かく、紙の中まで染み込むため、発色は美しい反面、紫外線で分解されやすいという欠点を持っています。


数年で色が抜け、黄ばんだり、紙ごと劣化することも。


特にアルコールインクアートなどは、インテリアとして楽しむには素敵ですが、作品として長期保存するのは難しいのが現実です。


飾る場所を選べば少し長持ちしますが、窓際や蛍光灯の近くは避けた方が無難です。


直射日光が当たる場所では、わずか数週間で色が変わってしまうこともあります。


代用するなら:顔料ベースのインク、または顔料水彩


「顔料ベースのインク」を使うのがおすすめです。


たとえば、プラチナの顔料インクやドクターマーチンのBombay India Ink(ボンベイインク)は耐光性が高く、ペン画や水彩の上からでも安定します。


もしインクの透明感を生かしたいなら、顔料水彩絵の具で代用するのが一番自然です。


特にダニエル・スミスやマイメリの透明色は、インクのように鮮やかで、耐光性も保証されています。


グラデーションやにじみの表現も、水彩なら自由にコントロールできますよ。


水をたっぷり含ませれば、インクのような透明感も出せるので、表現の幅も広がります。

ペン系画材:便利だけど、インクの質に大きな差

ミリペンやカラーペンは、線を描くのにとても便利ですよね。


特にイラストや漫画を描く人には必需品です


手軽に使えて、細かい線も思い通りに描けるのが魅力。


でもここにも落とし穴があります。


安価なペンの多くは水性染料インクで、光に弱く、数か月〜数年で薄くなってしまいます。


とくにポスターカラー風の発色が強いマーカー系は、アルコール染料が使われているため、時間とともににじんだり退色したりします。


コピー用紙に描いたイラストが、いつの間にか茶色く変色していた…という経験、ありませんか?


それは、紙の酸とペンの染料インクが反応して起こる現象です。


学生時代の大切なノートやスケッチブックが、数年後には見られない状態になっていることもあります。


代用するなら:顔料インクのペン


「顔料インクのペン」を選ぶことが大切です。


たとえば、

サクラ「ピグマ(PIGMA)」顔料インク使用(Pigment Ink)。

染料ではなく顔料なので、耐光性・耐水性が高いです。

アーカイバル品質(archival quality)を公式にうたっています。

インクは酸性を含まず、pH中性。

✅ 結論:信頼できる「アーカイバル品質」ペン。 → 原稿やスケッチ、作品の線画用にも◎。


線画を作品として残したい人には必須の選択肢になります。


少し値段は高めですが、描いた線が何十年も残るなら、安心ですよね。


特に、原画を販売する場合や、作品集を作る場合には、顔料インクペンを使うのが基本です。


もちろん、日常のメモやラフスケッチには、普通のペンでも全く問題ありません。


大切なのは、「残したい作品には、残る道具を選ぶ」という意識です。

ジークレー版画で作品を永く残す方法

もし、すでに劣化しやすい画材で描いてしまった作品があっても、

諦める必要はありません。


「ジークレー版画」として複製保存する方法があります。


ジークレーとは、高性能なインクジェットプリンターで、原画を忠実に再現する版画技法のこと。
美術館やギャラリーでも採用されており、原画と見分けがつかないほど精密です。


フランス語で「吹き付け」を意味する言葉で、繊細な色の再現力が特徴です。


使用するのは、顔料インクとアーカイバル品質の紙。


染料インクと違い、顔料インクは光に強く、適切な環境なら100年以上色褪せないと言われています。


紙も中性紙や綿100%の版画用紙を使うため、黄ばみにくく長持ちします。


専門の工房に依頼すれば、原画をスキャンして高品質なジークレー版画を作成してもらえます。


原画は劣化しても、ジークレー版画として複数枚残せるため、販売用や保存用に分けることも可能です。


限定番号とサインを入れれば、エディション作品として価値も認められます。


「描いた作品を、未来にも残したい」

と思ったら、ジークレー版画という選択肢も覚えておいてくださいね。


特に、アクリルガッシュやインクで描いた思い入れのある作品がある方には、ぜひ検討してほしい方法です。

まとめ:用途に合わせて、賢く選ぼう


絵を描くことは、自由で楽しいもの。


だからこそ、画材選びに神経質になりすぎる必要はありません。


練習や趣味で楽しむなら、手軽で発色のいい画材を使うのが一番です。


描くこと自体を楽しむことが、何よりも大切ですから。


でも、「誰かに贈りたい」「販売したい」「展示したい」作品を描くときは、

ほんの少しだけ「時間に強い画材」を意識してみてください。


その選択が、あなたの作品を未来へつなぐ架け橋になります。


あなたの大切な作品が、10年後も20年後も、描いたときと同じ美しさで残りますように。

それではまたお会いしましょう。ひつじでした。